今日めっちゃ頭使ったから、お腹ペコペコ!
会議や勉強のあと、こんなセリフをつい口にしたこと、ありませんか?
“脳を使えばカロリーを消費して痩せる”──そんなイメージが広く信じられていますが、最新の脳科学研究はこの通説を否定しています。
2025年のレビュー論文によると、脳が使うエネルギーは集中してもたった5%程度しか増えないことが明らかになりました(Jamadar et al., 2025)。
それなのに、私たちはなぜ「頭を使ったあとにお腹が空く」と感じてしまうのでしょうか?
そこには、脳の“省エネ設計”と行動心理のズレが関係しています。
すずちゃん今日、課題にめっちゃ集中したから、絶対カロリーめっちゃ燃えた気がする…



気持ちはわかるけど、それ実は“勘違い”なんだよ〜。科学的には全然痩せてないかも…



えっ、じゃあこの空腹感ってなに!?私の努力は…!?



安心して、ちゃんと理由があるから。このあと一緒に学ぼっか
📘この記事でわかること
- 🧠 脳は集中しても、実はあまりエネルギーを消費しないという最新科学の結論
- 🔋 脳が1日に使うカロリー量と“ダークエネルギー”の正体
- 🍫 「集中したあとは甘いものが欲しくなる」現象の理由とその行動心理
- 🥄 「思ったよりカロリーは使っていない」けど「脳が働くにはエネルギーが必要」な理由
なぜ頭を使っても痩せないのか?
「脳は体重の2%しかないのに、エネルギーの約20%を消費する」──これは脳科学界ではよく知られた事実です(Raichle & Gusnard, 2002)。
この数字だけを見ると、「じゃあ脳をもっと使えば、もっとエネルギーを消費して痩せるのでは?」と思ってしまいますよね。
ところが、脳が“どれくらい集中しているか”によって、消費エネルギーはほとんど変わらないのです。
2025年のレビュー論文(Jamadar et al., 2025)によれば、脳が高度な認知作業(問題解決、記憶、集中など)をしている時でも、消費カロリーは安静時と比べてわずか5%しか増加しないことがわかっています。
さらに別の研究でも、難しい課題に取り組んでいる時と、ぼんやりしている時の脳の総エネルギー消費にほとんど差がないことが示されています(Kondrakiewicz & Nawrocka, 2025)。



えっ…!?5%しか増えないの? 私の全力集中、5%分しか消費してないってこと!?



そうなの。たとえば1日500kcalを脳が使ってるとしても、集中しても+25kcalくらい。チョコ1かけ分もないかも…
つまり、「すごく頭を使ったからエネルギーをたくさん消費した!」という感覚は、体感的には正しくても、代謝的には錯覚に近いのです。
次のセクションでは、「じゃあ、なぜお腹が空くのか?」という“体感とのズレ”を探っていきましょう。
なぜ「頭を使うとお腹が空く」と感じるのか?
「集中するとお腹が空く」──多くの人が経験しているこの現象。
しかし、実際には、脳の消費カロリー自体はほとんど増えていません。
それでは、なぜ“空腹感”だけが強くなるのでしょうか?
結論から言うと、これは 心理的ストレス・脳の疲労感・ホルモン反応 が組み合わさった「体感上の空腹」であり、実際の消費カロリーとは一致しません。
🔍 1. 精神的作業は「食欲」を増やす(消費はほぼ増えない)
精神的負荷のかかるタスクは、消費カロリーそのものではなく、食欲と摂取カロリーを増やす ことが分かっています。
Neumeierらの実験では、20分間の精神作業後に休息したグループは、
安静時より平均約100 kcal多く食べた という結果が得られました(Neumeier et al., 2016)。
さらに先行研究でも:
- 45分読書後 → 約 200 kcal多く摂取
- コンピューターテスト後 → 250 kcal多く摂取
など、複数の研究で「精神的作業後の過食」が繰り返し確認されています。
重要なのは、“消費カロリー”ではなく“摂取カロリー”が増えてしまうという点です。
🔍 2. 脳が局所的にグルコースを使う=空腹の原因ではない
認知活動中には、脳の一部でグルコース代謝が高まることがPET研究で示されています(Kern et al., 2008)。
ただしKern 2008が示すのは、
- 前頭前野の局所的な代謝変化
- ストレスホルモン(コルチゾール)との関連
であり、“局所の代謝変化が空腹を引き起こす”
という証拠はありません。
つまり、脳の“局所的なエネルギー消費”は増えるが、それは全身の消費カロリーを大きく変えるほどではなく、空腹の直接原因でもないということです。
🔍 3. 空腹感は「脳の疲労」と「ご褒美欲求」が作る
研究者たちは、精神的に疲れたあとに食欲が増える理由として、次の3つを挙げています:
① 認知的疲労による「ご褒美(報酬)欲求」の増加
→ 脳が“頑張ったから何かくれ!”と感じる
→ 甘いもの・高カロリーを欲しがる
② ストレス反応によるホルモン変化
→ 認知タスクは軽度のストレスを伴い、食欲増進につながる
③ 主観的な「疲れた=エネルギーが減った」思い込み
→ 実際の代謝とはズレた感覚による空腹



集中したらお腹が空くって、やっぱり気のせいだったの?



“気のせい”というより、“脳の疲れが食欲を引き起こす”って感じかな〜



たしかに…テスト勉強の後って甘いもの欲しくなる…



そうそう。でも実際の消費カロリーはほとんど増えてないから、食べすぎ注意だよ〜!
🔎まとめ
- 精神的作業は、カロリー消費ではなく食欲を増やす
- 局所的なグルコース消費は空腹の主因ではない
- 空腹感の正体は「心理・ストレス・報酬系」の反応
- “お腹が空く=大量にカロリーを使った”ではない
脳はそもそもどれだけエネルギーを使っているのか?
集中しても消費カロリーが増えないなら、脳って普段どれくらいエネルギーを使っているの?
ここを理解すると、“考えても痩せない理由” がさらにハッキリします。
🧠 脳は体重2%なのに、全エネルギーの20%を消費する
古典的で非常に影響力のある研究(Raichle & Gusnard, 2002)によると、脳は体重のたった約2%しかないのに、安静時でも全エネルギーの20%を使っています。
成人の基礎代謝が1,500〜2,000 kcalとすると、脳だけで 約300〜400 kcal/日。
これは、
🍚 お茶碗1杯のごはん(240 kcal)+α
に相当します。
🔍 “ほとんどが安静時に使われている”という驚きの事実
さらに重要なのは、脳のエネルギーの大半が、
「外から見えない活動」を維持するために使われている
ということ。
科学誌 Scientific American に掲載された解説(Raichle, 2010)では、脳のエネルギーの60〜80%は、次のような「内側の仕事」に使われていると説明されています:
- 神経回路の維持
- 情報の統合
- 記憶の更新
- デフォルトモードネットワーク(DMN)の活動
- 予測処理・背景処理
これらは、私たちが「何もしていない」と思っている時にも行われています。
🔍 最新レビューでも「認知タスクの上乗せはわずか5%」
2025年の最新レビュー(Jamadar et al., 2025)も同じ結論を示しています。
- 脳の基礎エネルギー消費は非常に大きい
- しかし認知タスクによる増加は わずか5%
また別の2025年レビューも、
「脳は高価な臓器だが、認知は驚くほど安上がり」(Kondrakiewicz & Nawrocka, 2025)
と述べています。
つまり、こうです👇
- 脳は“高額固定費”がとても大きい
- “追加でかかる変動費”はほとんどない
だから──
集中したところで劇的なカロリー消費は起きない
というわけです。



脳って普段からそんなに仕事してたの!?サボってるの私だけ…?



いやいや、すずちゃんの脳もめっちゃ働いてるよ!“考えてない時間”にもエネルギー使ってるんだ〜



じゃあ…ぼーっとしてても結構カロリー使ってるってこと?



そう!でも残念ながら“痩せるほどではない”っていうのがポイント…笑
🔎まとめ
- 脳は1日あたり 300〜400 kcal ものエネルギーを使う
- その 60〜80%は“普段のメンテナンス” に使われている
- 集中しても上乗せされるのは 5%程度
- つまり「脳を使えば痩せる」は、科学的には成り立たない
まとめ:脳を使っても痩せない。でも、脳のためにできることはある
ここまでの研究を総合すると、はっきり分かるのは、
「脳を使えば痩せる」という通説は誤解であるということ。
2025年の最新レビューでも、
集中や問題解決といった認知活動で増えるエネルギーはわずか5%程度(Jamadar et al., 2025)。
そして脳は、体重の2%しかないのに
1日のエネルギーの20%(300〜400 kcal) を、
「考えていない時」でさえ使い続けています(Raichle & Gusnard, 2002)。
つまり──
✖ 頭を使う → カロリーを大量消費 → 痩せる
ではなく、
✔ 頭を使う → “疲労感”から食欲が増える → 食べすぎやすい
という流れが実際のところです。
🧠 では、脳のためにできることは?
痩せる目的で脳を使うのは非効率ですが、
脳を効率よく働かせるためにできる行動 はたくさんあります。
① 適度な糖質は“脳の燃料”
脳は基本的にグルコースしか使えません。
極端な糖質制限は集中力低下につながることがあります。
→ バナナ、果物、低GIの軽食がおすすめ。
② 長時間の認知タスクには“休憩”が必須
集中してもカロリーは大きく減りませんが、認知疲労は確実に蓄積します。
→ 25分作業+5分休憩などの「ポモドーロ」方式が効果的。
③ 精神的ストレス対策は「食べすぎ予防」にもなる
研究では、精神タスク後に「食欲の暴走」が起きやすいことが示されています。
→ タスク後の“リラックス時間”を確保すると、過食防止にも有効。



がんばって考えても痩せないのはちょっと残念だけど…脳って思ったより忙しいんだね!



そうなの。集中してもしなくても、脳はず〜っと働いてるからね。だからこそ、いい燃料と休憩が大事なんだよ



よし!今日は集中した後に散歩してこよっと!



それ正解〜!脳にも身体にもいい、いちばん賢い選択だよ
脳を使うこと自体では痩せません。でも、
脳の仕組みを知ると、より上手に集中し、自分の体とも付き合えるようになります。
- 集中中の疲労感にだまされず
- 食べすぎのトリガーを理解し
- 脳に優しい行動を選ぶ
こうした積み重ねが、
「仕事のパフォーマンス」も「健康」も大きく変えてくれます。
📝 ご注意ください
・本記事は、信頼できる資料をもとに薬剤師が分かりやすくまとめた一般情報です。
・内容には十分配慮していますが、個別の症状や体質には必ず医師・薬剤師へご相談ください。
・万一誤り等にお気づきの際は、そっとご指摘いただけると幸いです。
参考文献
- Jamadar, S. D., et al. (2025). The Metabolic Costs of Cognition. Trends in Cognitive Sciences, 29(6), 442-454. https://www.cell.com/trends/cognitive-sciences/abstract/S1364-6613(24)00319-X
- Raichle, M. E., & Gusnard, D. A. (2002). Appraising the brain’s energy budget. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 99(16), 10237-10239. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC124895/
- Kondrakiewicz, K., & Nawrocka, J. (2025). Brains are expensive, but cognition is often cheap. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0149763425004518?via%3Dihub
- Neumeier, W. H., et al. (2016). Exercise Following Mental Work Prevented Overeating. PLoS ONE, 11(8), e0161126. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4987226/
- Kern, S., et al. (2008). Glucose Metabolic Changes in the Prefrontal Cortex Are Associated with Cognitive Workload. NeuroImage, 39(1), 129-136. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2601562/
- Raichle, M. E. (2010). The Brain’s Dark Energy. Scientific American. https://www.scientificamerican.com/article/the-brains-dark-energy/



